世界文明の中心は日本へ

いま世界で起きている最も大きな潮流は「分断から統合へ」である。その理由を身近な例から説明したいと思う。

ひとつめは、インターネットの誕生と普及である。これまでは遠い国のことは知りようがなかったが、今やネットを使えば誰でも簡単に知ることができるようになった。そうなると、これまではそれぞれが独立して存在するかのように思えていた国々が、実は密接に繋がっているんだということが、だんだんとわかってくる。他国を犠牲にして自国だけが豊かになろうとすれば、たちまち全世界に悪影響を及ぼし、結局は自国にも悪影響となって返ってくる。自分が幸せになるには、人類全体が幸せになければならない。ネットの利用を通じて人類はいま、そのことに気がつきはじめている。

ふたつめは、ものづくりの世界でも起きているように、個人でできることが増えていき、大企業でなければできないことがどんどん減っているということだ。個人でできることが増えていくと、厳しい縦型組織に所属していた人たちは、だんだんとそこから離れていく。人は誰かの言いなりで生きていくのではなく、尊厳のある自分らしい生き方を求めているからだ。とくに現代は知識社会であり、知識労働者は資本がなくとも自立できるから、それが加速度的に進んでいく。では、縦型組織から離れ、自由を手にした人たちは、これから何を理念として生きていくのか。これまでは所属する組織の理念に合わせて生きてきた。こんどは何を理念とするのか。それは人類全体の幸せではないか。自分が幸せになるには、人類全体が幸せになければならないことを知っているからだ。アダムスミスの「見えざる手」のように、各個人が利益を追求することによって、社会全体の利益がもたらされるという考え方ではなく、人類全体のために自分はどんな役割をすべきか、自社はどんな役割をすべきか、地域はどんな役割をすべきか、日本はどんな役割をすべきか、そういう考え方をするようになっていく。

三つめは、人々の「所有」に対する意識の変化だ。身近な例で言えば、GOOGLEドキュメントとかスプレッドシートといったアプリケーションは、パッケージを購入して使うものでもなく、ダウンロードして使うものでもない。ブラウザからオンラインで利用するものだ。だからそれらのアプリケーションは所有することができない。そしてそれを使って作ったデータさえも所有することができない。自分で作ったデータなのだから明らかに自分の所有物なのだが、クラウドに保存されているので物理的にどこにあるのか作った本人でさえわからない。今までの社会では、何かを入手すれば、それは物質であったから自分のものとして所有することができた。しかし今後、あらゆるものが物質ではなく情報に変わっていくと、所有という概念、つまり、ここからここまでというように境界線をつけてその内側は私のもの、といった概念が崩れてくる。今後VR技術やIoT技術、人工知能といたテクノロジーの進化により、人間はそれらと触れることで、実は境界線というのは存在せず、「すべてが決して分けることのできない繋がったひとつ」であるということを悟る時がくる。そしてそのことが人類に「共同体意識」のような感覚を芽生えさせ、人類全体の幸せを願う気持ちを加速させるのではないか。

こうした時代の流れを考えると、おのずと企業の組織はどうあるべきかがハッキリと見えてくる。それは、自立した個人が互いの強みを生かしながら有機的に連携して、人類全体の幸せをめざす組織だ。逆の言い方をすれば、企業も国もそのようなあり方でなければ、未来はないであろう。そのためには、これまでの「一人のカリスマが多くの者を従える」といった組織ではなく、「誰もが組織の一員でありながら、誰もが主役」の組織をつくる必要がある。そしてそれは必然的に、多様な考え方を上手に融合させて新しい価値を創造できることが求められる。誰もが主役なのにそれができなければ、意見が衝突してしまい肝心の成果を生み出すことができないからだ。だから、たとえば「正義」について、たった一つの定義があるのではなく、それぞれ国ごと個人ごとに定義が違うということを認めあうことが大切になってくる。

実はこのような組織風土は、日本人の行動様式との相性が非常に良い。日本には宗教的タブーが少ない上に、「八百万の神」と言われるように、一神教とは異なり多様な考え方を認め、融合させることができる文化を持っているからだ。さらに、その組織風土は、日本人の空間認識の仕方とも相性が良い。「木を見る西洋人、森を見る東洋人」というタイトルの本を見かけたことがあるが、その通りで、西洋では「対象の周りに背景がある」という考え方が根底にあり、東洋には「背景の中に対象がある」という考え方が根底にある。日本人は、細胞と身体の関係のように、誰もが主役でありながら共同体意識を持って、ひとつの方向に向かうことができるのだ。

分断から統合への流れは、皮肉なことに西洋が生み出したテクノロジーとその進化によって加速していき、文明の中心を西洋から東洋へと移動させる。論理的で合理的なものは価値を失っていき、曖昧で情緒的なものの価値が高まっていく。そして、誰もが主役でありながら共同体意識を持って、ひとつの方向に向かうことができる組織風土が求められていく。その時代の要請に応えられるのは日本だけだ。まさに今、世界文明の中心は日本上空に差し掛かっている。

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